
目次
乳がんの手術や治療が一段落したあとも、多くの方が定期的な通院を続けます。
「乳がん術後の通院はいつまで必要なの?」
「毎回どのような検査をするの?」
「大学病院に通い続けるべき?クリニックで診てもらってもよい?」
このような疑問を持つ方も少なくありません。
乳がんの術後フォローでは、再発の有無だけでなく、反対側の乳房に新たな乳がんができていないか、内分泌療法などの治療を無理なく続けられているか、日常生活で困っている症状がないかを確認していきます。
今回は、乳がん術後の通院期間、経過観察で行うこと、クリニックでできる術後フォローについて解説します。
乳がん術後も通院が必要な理由

乳がんの治療は、手術をして終わりではありません。
手術後には、病理結果や乳がんの性質(サブタイプ)に応じて、放射線療法、抗がん剤治療、分子標的薬、ホルモン療法などが行われることがあります。
これらの治療が終了したあとも、定期的な経過観察が必要です。
乳がん術後の通院には、主に以下の目的があります。
- 手術した乳房や胸壁の変化を確認する
- 反対側の乳房に新たな乳がんができていないか確認する
- リンパ節や術後の創部に異常がないか確認する
- ホルモン療法などの薬を継続する
- 治療に伴う副作用や体調変化を相談する
- 気になる症状が出たときに、必要な検査や紹介につなげる
患者さんにとって一番心配なのは「再発」だと思います。
ただし、症状がない状態でCTや腫瘍マーカーなどを定期的に行うことが、乳がん術後の生存率向上につながるとは明確には示されていません。日本乳癌学会の患者さん向けガイドラインでも、乳がん術後の経過観察としては、年1回のマンモグラフィと定期的な医師の診察が一般的とされています。(JBCS)
そのため、術後フォローでは「検査をたくさん行うこと」だけが大切なのではなく、必要な検査を適切な間隔で行い、症状や体調の変化を丁寧に確認していくことが重要です。
乳がん術後の通院はいつまで必要?

乳がん術後の通院期間は、乳がんの進行度、サブタイプ、行った治療、内服薬の有無、年齢、併存疾患などによって変わります。
一般的には、術後5年~10年を一つの区切りとして経過をみていくことが多いです。
特にホルモン受容体陽性乳がんでは、ホルモン療法を5~10年継続します。
一方で、術後治療がひと段落し、状態が安定している方では、大学病院やがん専門病院だけでなく、地域の乳腺クリニックで経過観察を続けるという選択肢もあります。
大切なのは、「何年たったからもう大丈夫」と自己判断で通院をやめないことです。
通院間隔や検査内容は、これまでの治療内容や現在の状態に応じて、主治医と相談しながら決めていきましょう。
経過観察では何をするの?
乳がん術後の経過観察では、診察、画像検査、必要に応じた採血などを組み合わせて行います。
1. 問診
診察では、まず体調の変化や気になる症状を確認します。
たとえば、以下のような症状がないかを確認します。
- 手術した側の胸やわきの違和感
- 新しく触れるしこり
- 乳房や胸壁の痛み
- 腕のむくみ
- 息切れや咳
- 骨の痛み
- 強い倦怠感
- 体重減少
- ホルモン療法によるほてり、関節痛、気分の落ち込み、不眠など
乳がん術後の診察では、検査結果だけでなく、患者さん自身が感じている変化がとても大切です。
「この程度で相談してよいのかな」と思う症状でも、診察時に遠慮なくお話しください。
2. 視診・触診
手術した乳房や胸壁、反対側の乳房、わきのリンパ節などを確認します。
乳房温存術後の場合は、温存した乳房にしこりや皮膚の変化がないかを確認します。
乳房全切除後の場合は、胸壁や手術創の周囲にしこりや皮膚変化がないかを確認します。
また、反対側の乳房に新たなしこりがないかも大切な確認ポイントです。
3. マンモグラフィ
乳がん術後の経過観察では、年1回のマンモグラフィが推奨されることが多いです。
マンモグラフィは、手術した乳房の局所再発や、反対側の乳房に新たに発生する乳がんを見つけるために重要な検査です。日本乳癌学会の患者さん向けガイドラインでも、術後経過観察中の年1回のマンモグラフィは推奨されるとされています。(JBCS)
ただし、乳房全切除を行った側には、通常マンモグラフィの対象となる乳房組織が残っていないため、検査の対象や方法は手術内容によって異なります。
4. 乳房超音波検査
乳房超音波検査は、乳房内のしこりやリンパ節の状態を確認するために行われます。
特に、乳腺が高濃度でマンモグラフィだけでは見えにくい場合や、触診で気になる部分がある場合には、超音波検査が役立つことがあります。
当院では、患者さんの状態やこれまでの治療内容に応じて、マンモグラフィと乳房超音波検査を組み合わせて確認しています。
5. 採血・腫瘍マーカー
乳がん術後の経過観察で、採血や腫瘍マーカーを行うことがあります。
ただし、腫瘍マーカーは万能な検査ではありません。
数値が上がったから必ず再発しているわけではなく、反対に、数値が正常でも再発がないと断定できるわけではありません。
日本乳癌学会の患者さん向けガイドラインでも、腫瘍マーカーは乳がん術後の再発チェック目的には限界があり、補助的なものと説明されています。(JBCS)
そのため、腫瘍マーカーの数値だけに一喜一憂するのではなく、症状、診察所見、画像検査などをあわせて総合的に判断することが大切です。
CTや骨シンチは毎年必要?

乳がん術後の患者さんの中には、「毎年CTを撮らなくて大丈夫ですか?」「骨シンチをしなくてよいのですか?」と不安に思う方もいます。
以前は、術後に定期的なCT、骨シンチなどを行う施設も少なくありませんでした。
しかし、症状がない方に対してCTや骨シンチなどを定期的に行うことが、乳がん術後の生存率を改善するとは明確には示されていません。ASCOの乳がん術後フォローに関するガイドラインでも、定期的な病歴聴取・身体診察・マンモグラフィが推奨され、症状がない場合の広範な画像検査は推奨されていません。(PubMed)
もちろん、症状がある場合や、診察・検査で気になる所見がある場合には、CT、MRI、骨シンチ、PET-CTなどの追加検査を検討します。
つまり、術後フォローでは「毎年必ず全身検査をする」ことよりも、症状や診察所見に応じて必要な検査を適切に選ぶことが重要です。
ホルモン療法中の方は副作用の相談も大切です

乳がん術後にホルモン療法を受けている方は、長期間の通院が必要になることがあります。
ホルモン療法は再発予防のために重要な治療ですが、長く続ける中で副作用に悩む方もいます。
代表的な症状には、以下のようなものがあります。
- ほてり、発汗
- 関節痛
- 手のこわばり
- 気分の落ち込み
- 不眠
- 倦怠感
- 骨密度低下
- 膣の乾燥感
- 月経の変化
副作用がつらいと、薬を続けること自体が負担になることもあります。
しかし、自己判断で内服を中止してしまうと、再発予防効果が十分に得られなくなる可能性があります。
つらい症状がある場合は、我慢しすぎず、主治医や乳腺外科で相談しましょう。
薬の種類、対症療法、骨密度の確認、婦人科や整形外科との連携など、状況に応じて対応できることがあります。
大学病院からクリニックへ移っても大丈夫?

乳がんの手術や抗がん薬治療、放射線療法などを大学病院やがん専門病院で受けたあと、状態が安定してくると、地域の医療機関で術後フォローを続けることがあります。
「大学病院でずっと診てもらった方が安心なのでは?」
「クリニックに移ったら、何かあったときに戻れないのでは?」
と不安に思う方もいるかもしれません。
実際には、乳がん術後の経過観察では、大学病院・がん専門病院と地域のクリニックが役割分担をしながら診療を行うことがあります。
日本乳癌学会の患者さん向けガイドラインでも、地域医療連携パスについて、専門的な治療を行った後に、薬の処方や日常的な検査を地域のかかりつけ医が担当し、節目の検査を拠点病院で行う流れが説明されています。(JBCS)
地域の乳腺クリニックで術後フォローを受けるメリットとしては、以下のような点があります。
- 通院しやすい
- 待ち時間の負担が比較的少ない
- 定期処方を受けやすい
- 気になる症状を相談しやすい
- 必要時には専門病院へ紹介できる
- 乳房の検査を継続して受けられる
もちろん、すべての方がクリニックでのフォローに適しているわけではありません。
治療中の内容、再発リスク、合併症、使用中の薬剤によっては、専門病院での継続診療が望ましい場合もあります。
そのため、クリニックでの術後フォローを希望される場合は、これまでの治療内容が分かる資料をお持ちいただくとスムーズです。
受診時に持参するとよいもの

乳がん術後フォローで初めて受診される場合は、可能であれば以下の資料をご持参ください。
- 診療情報提供書
- 手術日、手術方法が分かる資料
- 病理結果
- 乳がんのサブタイプが分かる資料
- これまでに受けた薬物療法の内容
- 放射線治療の有無
- 現在内服中の薬
- 直近のマンモグラフィ、超音波、CTなどの検査結果
- お薬手帳
資料がすべてそろっていなくても受診は可能ですが、治療経過が分かると、より適切に経過観察の方針を立てることができます。
予定日前でも受診した方がよい症状

乳がん術後の経過観察中でも、次のような症状がある場合は、次回予約日を待たずにご相談ください。
- 乳房、胸壁、わきに新しくしこりを触れる
- 手術した部位の皮膚が赤い、腫れている、硬くなっている
- 乳頭から血の混じった分泌液が出る
- 反対側の乳房にしこりや違和感がある
- 腕のむくみが急に強くなった
- 骨の痛みが続く
- 咳や息切れが続く
- 原因不明の体重減少がある
- 強い倦怠感が続く
これらの症状があるからといって、必ず再発というわけではありません。
しかし、術後の方にとっては確認しておいた方がよい症状です。
不安なまま様子を見続けるよりも、早めに相談することをおすすめします。
お茶の水乳腺クリニックの乳がん術後フォロー

お茶の水乳腺クリニックでは、乳がん術後の経過観察、ホルモン療法中の定期通院、乳房検査(マンモグラフィ、乳腺超音波検査)、症状相談に対応しております。
マンモグラフィ、乳房超音波検査を行い、必要に応じて採血や追加検査、連携医療機関へのご紹介を行います。
大学病院・専門病院で治療を受けたあと、通院先に迷っている方、定期検査を続けたい方、ホルモン療法中の症状について相談したい方もご相談ください。
乳がん術後の通院は、単に再発を探すためだけのものではありません。
これからの日常生活を安心して続けるために、体調の変化を確認し、必要な検査を行い、不安や副作用について相談する場でもあります。
手術や治療が一段落した後も、無理なく通院を続けられる環境を整えることは大切です。
乳がん術後の経過観察についてお悩みの方は、お気軽にご相談ください。
参考文献
日本乳癌学会. 患者さんのための乳がん診療ガイドライン2023年版. Q39 手術後の経過観察はどのように受けたらよいでしょうか.
American Society of Clinical Oncology. Breast Cancer Follow-Up and Management After Primary Treatment: ASCO Clinical Practice Guideline Update. J Clin Oncol. 2013.
ESMO Clinical Practice Guideline: Early Breast Cancer. Annals of Oncology.
National Comprehensive Cancer Network. NCCN Guidelines for Patients: Breast Cancer.



